2007年盛夏号

マーケットセンサー 消費者の意思決定プロセスとメディア

明治学院大学 経済学部
教授 清水  聰


 私の専門は消費者行動論である。消費者行動論って?と思われる節もあるだろう。経済学の理論では、富める人が高い商品を購入するという前提で話が進むが、実際はそうではない。自分が気に入れば借金してでも買うし、気に入らなければどんなに安くても買わない。そういう、経済的要因だけでは説明できない消費者の行動を研究し、企業のマーケティング戦略に役立てている学問ですよ、と言えば多少理解してもらえるだろうか。

  そんな研究領域であるが故、若い人の興味をひくためか私の授業は常に満席。これから前期試験の季節を迎え、採点を考えるとちょっとブルーになっているところである。

  前置きはこのくらいにして、今日のテーマである消費者の意思プロセスについて説明しよう。意思決定プロセスとは消費者の購入までのプロセスを考える研究で、大きく分けて2つの考え方がある。一つは刺激反応型と呼ばれる方法で、チラシ広告やキャンペーン、値引などの刺激に反応して購入する方法で、この際の消費者は、刺激をただ受け入れるだけの、受動的な消費者である。これに対して情報処理型と呼ばれる方法は、消費者が解決したい目標や目的がまずあり、それのために情報を収集し、その情報をベースに候補となる商品を絞り込んで選択する意思決定プロセスであり、消費者は積極的に情報を集めることから、能動的な消費者が仮定されている。刺激反応型を採るか、情報処理型を採るかは、商品の価格や、当該商品に対する興味度合いによって異なり、間違って購入してもリスクの低い商品では刺激反応型の意思決定プロセスが用いられ、価格が高くリスクの大きい商品の場合は情報処理型で購入されると言われている。

  実際の調査でも、ビール、清涼飲料、加工食品、菓子などは、普段接しているメディア、比較検討で用いるメディア、購入時に用いるメディアとも、テレビ広告・チラシ広告・店頭での目立ち度、であり、明らかに刺激反応型で購入されている。これに対して、自動車の場合、普段接触するメディアは店頭、雑誌などであるが、購入の段階に近くなるにつれ店員の情報が重要になってくる。積極的に情報を収集する消費者になるわけだ。

  利用メディアの違いは、このように商材の違いだけではなく、消費者の当該商品への関心度合いの違いも関係する。旅行商品の選択でみてみよう。旅行に関心が低い人は、チラシや新聞の情報など、何もしなくても入手できるメディアを多く利用する。これに対して非常に関心の高い人はインターネットや雑誌、口コミなど、自ら積極的に動かなければ入手できないメディアを活用する。面白いのは関心が中程度の人たちで、この人たちはDMや通販カタログなど、情報を取るという意味では受動的なのに、そこから先は能動的に読まねばならないメディアを利用していることである。

  関心が高ければ能動的に情報を取りに行く。低ければ受動的に情報を待つ。中くらいなら受動的に情報を待ち、能動的にそれを見る。こうなると、同じ旅行社でも、メディアによって商品ラインナップを変える方が効率的、ということに気がつくだろう。メディアが違えばそこに求める情報も異なる。これが実は非常に重要である。

  どうだろうか。消費者行動研究、少しは楽しいと思ってもらえただろうか?

プロフィル
1963年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、同大学院修士課程、博士課程を経て1991年、明治学院大学専任講師。助教授を経て2000年より現職。博士(商学)。専門はマーケティング、特に消費者行動論。著書に「新しい消費者行動」、「消費者視点の小売戦略」、「戦略的消費者行動論」(いずれも千倉書房)がある。



バックナンバー
07年盛夏号 消費者の意思決定プロセスとメディア
07年秋季号 メディアとしての新聞の役割
07年初冬号 目利きさんと死神さん
08年新春号 聞き耳層の役割
08年春季号 消費者の情報接触活動と商品分類