2007年初冬号

マーケットセンサー 目利きさんと死神さん

明治学院大学 経済学部
教授 清水  聰


 前回示したように、インターネットの発達とともに、生活者の間に情報格差が広がっている。この結果、新商品にぱっと飛びつくイノベーターは、自分が購入するだけではなく、その購入経験や使用経験を、口コミやブログという形で発信するようになってきた。俗に言うインフルエンサーの発生である。

  インフルエンサーは自分が購入して、その商品の情報を流すが、これだけ情報が氾濫してくると、購入しなくても商品の成否がわかる人たちが登場してきた。私はこれを「目利き」と命名し、現在アサヒビール株式会社と共同研究を進めている。

  従来までの飲料や食品の新製品の需要予測は、発売後のトライアル(試しに購入してみる人)とリピート(トライアルした人のうち、再購買する人)の数で算出していた。実際、発売から13週間の、お客様の購買履歴データがあれば、半年後の需要はかなりの精度で予測できる。しかしこの方法には大きな欠点がある。そう、日本のコンビニエンスストアでは、13週間も売れるか売れないかの判定を待ってくれないのだ。大体発売後4週間が勝負。従って、より早い段階で製品の成否を決められる方法が求められてくる。そこで目をつけたのが、情報格差社会の浸透とともに増えている目利きの存在である。

  仕組みはいたって簡単。ネット上に組織している目利きパネルに対して、新製品のプレスリリースの情報を与え、売れるかどうか、いくつかの指標で判断してもらうだけ。その値を集計すると、売上の予測が出来る。詳しくは企業秘密だが、トライアル・リピートと同じ程度の精度で予測可能だ。一般的に大型の新商品では、プレスリリースが2ヶ月ほど前には出されるため、それを用いれば十分発売前に売上予測が出来る。発売前にそれがわかれば、その後のマーケティング戦略も立てやすくなる。現在、より精度を上げるべく、鋭意努力中である。

  目利きは先端層だが、これとは逆の端に位置する消費者も存在する。情報感度が低く、自ら積極的に情報収集をしない層である。不思議なことに、購入者の中に、この層の割合が増えると、そのブランドは衰退していってしまう。そこでこれを死神と名づけ、現在読売広告社と共同研究を行っている。

  死神の特徴は、商品カテゴリー横断的に死神であることだ。目利きの場合、商品カテゴリー横断的に売上を予測できる人は少ないが、死神はかなり安定している。実際、ある食品カテゴリーで死神構成比の変化を分析してみると、シェアがここ数年来下がっているブランドの、死神構成比率は年々上昇している。じわりじわりと増えていくのがなんとも気持ち悪い。これもブランド診断の実用化に向けて鋭意努力中である。

  このように、情報格差は、実際に購入していなくても、その情報接触度だけで人のグループわけが出来、それを用いた新しいマーケティング戦略が可能になってきている。従来型のマーケティングではない、新しい可能性を感じる。

プロフィル
1963年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、同大学院修士課程、博士課程を経て1991年、明治学院大学専任講師。助教授を経て2000年より現職。博士(商学)。専門はマーケティング、特に消費者行動論。著書に「新しい消費者行動」、「消費者視点の小売戦略」、「戦略的消費者行動論」(いずれも千倉書房)がある。



バックナンバー
07年秋季号 メディアとしての新聞の役割
07年初冬号 目利きさんと死神さん
08年新春号 聞き耳層の役割
08年春季号 消費者の情報接触活動と商品分類
08年新緑号 選択される旅行の違いとメディアの違い