2008年新春号

マーケットセンサー 聞き耳層の役割

明治学院大学 経済学部
教授 清水  聰


 日本の消費者の中に情報格差が生じていることはこのコラムの中で何回も触れてきたとおりである。その中でも特に情報感度が高いイノベータと呼ばれる層については、研究面・実務面でも多くの注目が当てられてきているが、イノベータが必ずしもヒット商品を購入するわけではない。イノベータの中には、真に新製品の良さを自ら判断して採用する人も確かに存在するが、新製品なら何でも飛びついてしまう、いわば新製品オタクと呼ぶべき人もかなり含まれるからである。

  では情報感度の高い人たちは役に立たないのか。私が注目しているのが、情報感度の高い人の中でも、イノベータの次に情報感度の高い人々である。この人たちは、イノベータのように常にアンテナを張り巡らし、ネットなどを駆使して自ら情報を積極的に収集しているわけではなく、回りの人の出方やメーカーの店頭での力の入れ方、CMの様子などの情報に敏感で、それらの情報から商品に対する判断を下し、購買を決める。人の意見やメーカーの情報によく耳を傾けていることから、私は彼らを「聞き耳」と名づけている。

  この「聞き耳」層であるが、イノベータと違って発売された直後に新製品に飛びつくわけではないが、この層が発売して比較的早い時期にある程度支持した製品は、かなりの確率でヒットする。また、売れ行きが鈍化している商品を観察してみると、全購入者に占めるこの「聞き耳」層の構成比率が、最盛期に比べて下がってきていることが多い。商品力を測定する上で、きわめて重要な層と言えるだろう。

  新聞社にとっても、この「聞き耳」層は非常に重要である。読売広告社が毎年調査している生活者調査「CANVASS」のデータを用いて分析すると、イノベータの新聞広告に対する評価が低いのに対して、「聞き耳」層は、新聞広告に対する評価が極めて高い。特に新聞広告の内容を話題にする、という項目に評価が高く、新聞広告の内容を重視していることがわかる。イノベータがネットを中心とした、自らの情報ソースを広く用い、そちらの重視するのに対して、聞き耳層は、新聞やTVCMなどの出所がはっきりした情報を重視する傾向がある。

  実際、聞き耳層へは新聞広告の効果が極めて高そうだ。昨年秋、福井で行われた全国新聞社広告責任者会議で、KDDIマーケティング本部村山直樹宣伝部長は、KDDIの展開している光ファイバー通信の家庭への普及で、TVCMと新聞広告の相互効果を強調されていた。新聞広告を入れた時のほうが、明らかに契約率が高いのである。村山部長は、イノベータが既に採用し、その次の層が採用する際には、新聞広告は効果があるらしい、と述べておられたが、まさにこれは「聞き耳」層のことである。つまり、商品普及の最初の段階は、新聞をそれほど重視しないイノベータ層が動くため、新聞広告はあまり効果がないが、聞き耳層が動くタイミングでは、新聞広告は効果を持つわけだ。商品の度合いを細かく観察し、聞き耳層が動き始めるタイミングを把握できれば、新聞広告の効果は出そうだ。

  聞き耳層、恐るべし、である。

プロフィル
1963年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、同大学院修士課程、博士課程を経て1991年、明治学院大学専任講師。助教授を経て2000年より現職。博士(商学)。専門はマーケティング、特に消費者行動論。著書に「新しい消費者行動」、「消費者視点の小売戦略」、「戦略的消費者行動論」(いずれも千倉書房)がある。



バックナンバー
07年初冬号 目利きさんと死神さん
08年新春号 聞き耳層の役割
08年春季号 消費者の情報接触活動と商品分類
08年新緑号 選択される旅行の違いとメディアの違い
08年盛夏号 「続きは.comで」は本当に役に立つのか